有田 正光・石村多門:ウンコに学べ!  ちくま新書

ウンコに学べ! (ちくま新書)

ウンコに学べ! (ちくま新書)



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)

環境問題がさかんに叫ばれている。だが近代人は、ウンコからは遠ざかろうとしてきたのではなかろうか。そして目をそむけ、鼻をつまむように、語ることが忌避されている。しかし、それは身近なものであるがゆえ、やはりその行方が気になる。本書では、誰もが正面から見据えようとしないウンコを通して、現代科学から倫理までを語る。ヒステリックなエコロジーの書ではなく、抱腹絶倒なのに役に立つ、おもしろ科学読本。



●目 次

第1章 あなたのウンコはどこへ行くのか(海に捨てられるウンコ/カウボーイも英国紳士も海まで運ばず川に捨てた/下水処理の手品の真相)
第2章 水田―土と水とウンコのバラード(ペリーが驚いた世界一清潔な国/生きるとはウンコを食べることである)
第3章 ウンコの黄金時代と糞まみれの経済(日本のウンコの大河ドラマ/ウンコ処理と財政問題)
第4章 ウンコをしない自立とする連帯(エコノミーからエコロジーへ/陰翳礼賛
ウンコをひらない身体/学校でウンコができない子どもたち)
第5章 ウンコに学ぶ環境倫理(みんなのおかげでウンコができる/ウンコとは死ぬことと見つけたり/ウンコに親しむ環境教育)



●読書のポイント

環境問題といえば、すぐにゴミのことが思い浮かぶが、ゴミのことを考える前にまずウンコのことを考えたい。ゴミは人間が作ったものの残りかすだが、ウンコはあたなを、あなたのいのちを作ったものの残りかすである。ゴミは我慢すれば減らせるだろうが、ウンコはなかなか我慢できない。・・・・

いきなり、「ウンコ」、「ウンコ」の連発で度肝を抜かれる異色の環境本(うんちく本、笑)を紹介します。本屋(名古屋栄にある丸善)で、この本を見つけたとき、題名に目が点になり、思わず手が伸びて購入してしまいました。そして、出張帰りの新幹線の中で一気に読み通してしまいました。

著者の並々ならぬ「ウンコ」への情熱に感心し、ときにはひとり笑いをかみ締めながら読みました。表現方法は別として、内容的にはとても示唆に富んだ本だと思いました。ウンコの連呼で嫌気がさす人がいるかもしれませんが(そのぐらい頻繁に「ウンコ」という言葉が飛び交っています)、そこを除けば、「ウンコ」という側面からみた中身の濃いうんちくのある環境本です。

前半部分の下水処理の記述はわかりやすく、内容も多岐にわたり充実しています。緩速濾過やばっき、そして海洋投棄や水田の浄水機能など、技術的な解説はとても勉強になりました。

また、後半の部分では環境倫理について深い考察が随所でみられます。学校でウンコができない子どもたちが増えているといいます。そのことに関連して、「人間の自立とは、ウンコをしないようになることではない。一人でウンコができるようになることである」という主張には合点がいきます。そして、「何でも『水に流す』のでは、今後の日本は生きられない。社会の問題は、バクテリアも分解はしてくれないのである。人間がそれを分解する努力もせずに、難しい問題、厄介な問題、面倒くさい問題、考えたくない問題として、ウンコを流す要領で、見て見ぬ振りしながら次から次へと流しているだけでは、さまざまな難問がすぐ先の下流に、姥捨て山のように溜まっていくのである」という考察に思わず肯く自分を発見しました。

現代は、ゴミやウンコが目前から見えなくなるシステムが構築されています。そのシステムによって、こうした廃棄物の存在をついつい忘れてしまいがちです。そうした日常の中では環境倫理もなかなか芽生えないのではないでしょうか。

ウンコはいつもあなたに「俺はお前がひりだしたウンコなんだぞ」と人知れず語りかけているのである。その「声なき肥え」を聞き流すのでなく、耳を傾けるべくフンばらねばならない。つまり環境問題に向き合うことは、自らのウンコに向き合うことでなくてはならない。自分はしてはいない、自分は「ウンコたれ」ではない、と言い逃れることなどできない相談なのである。

含蓄深い言葉です。