矢田 浩:鉄理論=地球と生命の奇跡 講談社現代新書

鉄理論=地球と生命の奇跡

鉄理論=地球と生命の奇跡



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)

人類が金属の鉄を使いだしたのは、たかだか五千年前のことにすぎない。しかし元素としての鉄は、四十億年前に生命が誕生したときから、生命になくてはならないものであり、その後の生命の発展を陰で演出してきた、と言ったらみなさんは驚かれるだろうか。このいずれの鉄のはたらきも、一つの奇跡的な偶然から生み出された。鉄はすべての元素のなかでもっとも安定な原子核を持ち、その一つの帰結として、地球では質量比でもっとも多い元素である。その鉄が、その持っている電子の数のために、生命にとっても、現代文明にとっても、かけがえがない機能を持つ元素となった、という偶然である。このことが、生命の誕生と発展のなかで、またさらに人類文明の展開のなかで、数々の奇跡を起こしてきた。


●目 次

第1章 奇跡の誕生 / 第2章 生命は鉄にどのように依存しているか / 第3章 鉄から見えてくる生命の歴史 / 第4章 鉄が人類を救うか / 第5章 鉄が人類に高度な文明をもたらした / 第6章 鉄から見た文明史 / 第7章 鉄器時代は終わらない


●読書のポイント

「鉄」というユニークな切り口で、生命や環境、そして歴史や文明を語った意欲作です。著者は金属工学の専門家。多少、専門知識を必要とする部分もありますが、興味津々の内容で読者の好奇心を心地よくくすぐります。

地球が水の惑星だという話はよく聞きましたが、実は質量比では鉄の存在量が最も多く、「鉄の惑星」という話にびっくりしました。そして、鉄という物質のユニークな特性が紹介されています。遷移元素として安定している、窒素、酸素、硫黄と結合しやすい、磁性を持つ・・・などなど。こうした鉄の優れた機能があるからこそ、生命は発展し、人類の文化も進化してきたというのは目からうろこのような話です。

そして、もうひとつ驚いたのは、鉄が地球温暖化防止の切り札として注目を集めているということ。鉄を海に散布し、植物プランクトンを増やすことで空気中のCO2を吸収させる試みがすでに進んでいるというのです。1993年以降、世界各地で海洋鉄散布実験が行われ、実際にプランクトンが増加した事例やCO2量が減少した例が報告されているそうです。

普段、何気なく身近にある鉄の存在について、優れた性質と可能性をわかりやすく、おもしろく解説する試みが功を奏しているといえるでしょう。