藤倉 良:環境問題の杞憂  新潮新書

環境問題の杞憂 (新潮新書)

環境問題の杞憂 (新潮新書)



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)

「環境」に関する話題については、日常生活や健康に身近なテーマとして関心が高い一方で、驚くべき誤解や非常識が世間一般にまかり通っています。一面的な悲観論に振り回されてストレスを溜めたり、不要な努力や出費を強いられたりするのは、なんともばからしい。地球環境から健康器具まで、中学・高校レベルの科学知識で冷静に捉え直してみれば―。以外にシンプルで「悪くない」環境問題の現実が見えてきます。


●目 次

まえがき
1 日本も捨てたものじゃない(日本は世界一健康に良い国である、日本はドイツ以上の環境大国である ほか)
2 健康不安に打ち勝つ(環境ホルモンとはなんだったのか、風呂場は路上より危険である ほか)
3 所詮は人が決めたこと(なぜフロンは禁止されたか、環境に関するふたつの基準 ほか)
4 暮らしやすい地球のために(地球は温暖化していない?、温暖化が寒冷化をもたらす? ほか)
5 環境の「常識」に惑わされない(江戸は環境都市ではなかった?、ディーゼル車vsガソリン車、合成洗剤vs石鹸 ほか)



●読書のポイント

環境問題に対してその危険性や深刻さを声高に訴え、世間の不安を煽るようなマスメディアの論調に対して待ったをかけた本です。著者は元環境庁のお役人さん。その後、大学の先生に転進された方ならではの本とお見受けしました。この本を読んで、やはり物事は多視点的に見ないといけないと感じました。

本書に示されているように、地球規模の環境はさておき、日本に限れば環境は以前よりずっと良くなっているというのは事実でしょう。なのに、健康や環境については悪いニュースばかりが目立ちます。その理由は何か?――マスメディアの影響が一番大きいと著者は指摘しています。

科学知識の乏しい記者が、表面的で「悪い話」を好んで不安を煽るように取り上げる。そして、「言いっぱなし」。ニュースを聞かされた市民は心配したままというのが現実だと。

確かに、ダイオキシン環境ホルモンの問題、シックハウス症候群の問題、神栖のヒ素汚染問題や青森・岩手、岐阜など各地で起きた産廃の不法投棄の問題、あるいは昨年大きな話題となったアスベストの問題など、いまではほとんどマスメディアには登場しません。だから問題が解決したかといえば、そうではありません。こうした問題への地道な取り組みがいまでも続いていることは確かなのですが。

ただ、こうした問題が実際にどれだけ人間の健康を脅かすリスクになっているのか、これはもう一度考える必要があるとも思います。本書に示されているように健康リスク(死亡リスク)だけを考えれば、環境問題よりもタバコの喫煙や入浴時のリスクの方がはるかに大きいのです。やみくもに環境問題の対策に莫大なコストをかけることが適切なのか、この本を読んで再考する必要性を感じました。もっといえばマクロにみた地球環境問題や資源循環型社会の形成に向けた施策のなかで将来に備えた国家的な予算を投入するのが未来の日本にとって望ましいのではないかという思うが過ぎりました。

本書の中で見つけた面白い話題をひとつ紹介しましょう。法律に定められた基準というのは、いずれも誰かが「えいやっ」で決めたものだというのです。道路交通法で定められた制限速度も、20歳未満の喫煙や飲酒の禁止も、そして環境基準や排出基準もみんな「えいやっ」だと・・・

もちろん、基本となるのは厳密な科学データですが、最後のところはいずれも誰かが「気合い」で決められたという話です。一度決まってしまえば、法律で定められた基準です。この基準以内におさまるよう涙ぐましい努力が企業に課されますが、その大元をたどれば「えいやっ」だというのは、なんだかとても不思議な感覚になりました。

というわけで、ニュースやマスコミの環境に対する煽り報道に疑問を持った方、環境問題が不安でたまらない方にこういう見方もあるという本としてオススメします。