岡田 晴恵:感染症は世界史を動かす  ちくま新書

感染症は世界史を動かす (ちくま新書)

感染症は世界史を動かす (ちくま新書)



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)
微小な細菌やウイルスなどの病原体が、そのときの政治や社会に与えた影響について、私たちの認識はどこかあやふやである。たとえば中世ヨーロッパに壊滅的な打撃を与えたペストについても、なぜ始まり、どのように終わったかについて、はっきりした結論が得られているわけではない。では、人類はその見えない恐怖にどう対処して来たのだろうか。そして、目の前の最大の脅威=新型インフルエンザとは何か。ハンセン病、ペスト、梅毒、結核、スペインかぜなど、人類史を大きく動かした感染症の歴史から、新型インフルエンザの脅威とその対策を考える。


●目 次

第1章 聖書に描かれた感染症 / 第2章 「黒死病」はくり返す? / 第3章 ルネッサンスが梅毒を生んだ / 第4章 公衆衛生の誕生 / 第5章 産業革命結核 / 第6章 新型インフルエンザの脅威 / 第7章 二一世紀の疾病


●読書のポイント

本書は、感染症に関する過去の歴史と今後の展望をウィルス感染の専門家が綴った内容の濃い読み物です。ただ単に、感染症の歴史を解説した本ではありません。宗教絵画からはじまりルネサンス産業革命と世界史の中で感染症がどのようなインパクトを与えたかをとても広範囲にわたって考察し、その思索が本の内容に深みを与えています。

世界史の転換の契機になったのは英雄だけではなく、実は感染症ではないかという筋書きにとても興味を覚えました。

確かに世界中で何千万人もの人が死ぬような災害は戦争を除いて、感染症しかないのかもしれません。その感染症が西欧を何度も襲っています。中世から近世にかけての感染症が引き起こしたパニックについてその生々しい記録が記されています。また、公衆衛生の確立や下層市民の不健康な生活についても詳細な記録が示されています。

ハンセン病、ペスト、梅毒、結核、スペインかぜ等、各時代を代表する病気を一つづつ取り上げていますが、なるほど本書を読むと感染症が世界史に影響を与えたという根拠はかなり当たっているように思いました。感染症がどれだけ人の命を奪ってきたかということと、それ以上に感染症の生む人間の狂気について深く考えさせられました。

最後の章では鳥インフルエンザのことが書かれています。鳥から人へ、そして人から人への感染へと変化しつつある感染症の恐怖がここにも示されています(致死率は50%以上!伝染力がすさまじい!!)。