筑紫 哲也:スローライフ―緩急自在のすすめ 岩波新書

スローライフ―緩急自在のすすめ (岩波新書)

スローライフ―緩急自在のすすめ (岩波新書)



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)
IT革命の進行の下で、いま暮らしと仕事のあらゆる領域でスピードや効率を求める勢いが加速している。だが、他方でその潮流への根本的な懐疑も確実に拡がっていよう。「秒」に追われるニュースキャスターならではの痛切な問題意識に立って、「スロー」に生きることの意味と可能性を全国各地の食生活・教育・旅などの実例から考える。


●目 次

「それで人は幸せになるか」 / スローフード、9・11、一神教 / ファストフードの時代 / 寿司と蕎麦、そして「地産地消」 / 「食」の荒涼たる光景 / 小さな旅、スローな旅 / 失われた「子どもの楽園」 / 急ぐことで失うもの / 「学ぶ」ということ / 「スローウエア」「ファストウエア」 / ロハスのすすめ、森林の危機 / 「木」を見直す / 長寿と「人間の豊かさ」 / スローライフ、北で南で/ 真の「勝ち組」になるために



●読書のポイント

賢くて強いと思っているが、実は束縛されて何も見えていない人なのだ。・・・

冒頭にワーグナーの「神々の黄昏」の言葉が引用されています。この言葉、今の自分の心に強いインパクトを与えてくれました。ニュースキャスターの筑紫哲也氏がスローライフについて語った新書本を今日は紹介しましょう。

この本は、スローライフをすすめた本ではありません。その副題にあるとおり、緩急自在に生きることをすすめた本です。

「スローか、ファストか」の二者択一の話をしているのではないのです。むしろ、両義性のなかで議論をすすめようとしているのです。(中略)これまでも、これからもますます「ファスト」になりそうな世の中で、「スロー」の効用がかえってあるのではないか、と主張しているのです。

いずれにしても、いちばんのカギは「緩急自在」の「自在」の部分にあります。自(おの)れが在る――自分が緩急のペースを選び取るということでしょう。

この本のなかでこの言葉を見つけたとき、正直、この言葉に救われたような気になりました。最近の私は、自らを「ファスト」に追い込んで、身動きの取れない状態になっていたのです。というか、そのようにがんじがらめの状態になっていると一人で思い込んでいたのでした。でも、この本で筑紫氏は、自分が緩急のペースを選んでいいんだと、繰り返し訴えているんですね。その言葉に大きな気づきを与えれもらいました。

「ドック・イヤー」「ねずみの時代」「IT革命」「グローバル化」「ファストフード」、そして「9・11」・・・9・11以前はひとつの基準(グローバル・スタンダード)を良しとする一元論が支配的でした。アメリカが推進するグローバル化は、アングロ・サクソン流の思考が色濃く投影され、弱肉強食型の市場原理が前面に押し出されていました。それが9・11とそれ以降の世界では、その一元論の呪縛がいかに恐ろしいものかを示しているというのです。そして、その反動として「スローフード」や「スローライフ」が台頭してきたと。

スローライフのことを考え始めて、それに見合う言葉探しをしらた、簡単に見付かった。
緩急自在。

ゆったりしようが、急ごうが、それを決めるのは自分、それが緩急自在ということではなかろうか。
さらに言えば、その自分はその時々、気分次第でどちらにも自在に動いてよい。そこに「自が在り」さえすれば。

スローフード」「スローライフ」「ロハス」「無印良品」「MOTTAINAI」「クール・ビズ」・・・さまざまな生き方を選択できることを改めて知る絶好の本と言えるでしょう。もちろん、「ファーストフード」を食べながら「六本木ヒルズ族」を目指すという生き方の選択肢も含めて、ですよ。