佐久間 充:ああダンプ街道 岩波新書

ああダンプ街道 (岩波新書)

ああダンプ街道 (岩波新書)



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)

建築資材や埋立てに使われる山砂の主産地、千葉県君津市ではこの二十年、丘陵が次々に削られ、一日に四千台も通るダンプカーが沿道住民に騒音、振動、交通災害や粉じんによる健康破壊をひき起こしている。その実態を精力的な調査によって初めて明らかにするとともに、合計千キロ以上の同乗によって聞き出した運転手たちのホンネを伝える。


●目 次

はじめに コンクリート文明の陰で / 1 狙われた山砂―千葉県君津市 / 2 ダンプ公害を検証する / 3 「ダンプ野郎」たちの言い分 / 4 舞う粉じん、住民の肺へ / 5 深刻な被害が浮き彫りに / 6 各地のダンプ街道を見る / 7 どこまで続く、ダンプ公害


●読書のポイント

昭和30年代後半からはじまった砂利採取。最盛期(昭和48年)には年間5千万立方メートルを上回る山砂が採取され、建設工事や埋立事業に利用されました。

千葉県君津市で採取された土砂を運搬なかで起きた数々のトラブル――著者はこれをダンプ公害と称しています。そのダンプ公害は、騒音、振動、粉じん、排気ガス、泥はね・石はね、交通事故・・・。本書では、そのすさまじいばかりのダンプ公害を克明に描いたルポルタージュです。とはいっても、ダンプ=悪という一方通行の描写ではありません。時にはダンプに同乗し、またあるときには土砂採取事業者へのインタビューを通じて、さまざまな角度からダンプ公害の本質を追求する姿勢に共感しました。戦後、飛躍的な発展を遂げた日本、そのインフラ整備の影で起きたダンプ公害やダンプ運転手の過酷な労働状況・・・。ルポルタージュとして読み応えのある本です。

また、千葉県の君津市の状況と対比する形で、神奈川県の中井町、東京都八王子市、あるいは京都府城陽市などの事例も報告されています。とくに中井町では一人の警察官がダンプ無法地帯をダンプ理想郷に変えた事例が示されており、強い興味を惹きました。どれも著者が足で稼いだ活きた情報が満載で読み応えもあります。やはり、実際に現地に足を運び、また地元の当事者から直接情報を集めることの重要性を本書を通して改めて痛感しました。

著者はその後も精力的に山砂の流れについて調査し、約20年の歳月を経て「山が消えた」という岩波新書を2002年に執筆しています。この「ああダンプ街道」と「山が消えた」の2冊の本を併読することで、日本社会の産業構造の変化をはっきりと捉えることができます。そして、いつの時代にもそのしわ寄せが同じところに集中しているという現実をつきつけられます。なお、君津市の小櫃地区の廃棄物の問題については、高杉晋吾著「産業廃棄物」(岩波新書)でも言及されています。

最近、家の事情で千葉県の鴨川を訪れる機会が増えています。埼玉から車で向かうときには館山自動車道を姉ヶ崎ICで降り、久留里を抜けるルートを使います。その途中、今回紹介するダンプ街道に登場する千葉県君津市の小櫃地区をよく通ります。

なので、本書に出てくるさまざまな場面が具体的にイメージできました。そして、改めてこの地を訪れてみたいという衝動に駆られました。