佐和 隆光:地球温暖化を防ぐ―20世紀型経済システムの転換 岩波新書

地球温暖化を防ぐ―20世紀型経済システムの転換 (岩波新書)

地球温暖化を防ぐ―20世紀型経済システムの転換 (岩波新書)



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)

地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出は二十世紀型工業文明と表裏一体の関係にある。その排出削減のためには、二十世紀型工業文明を見直すと同時に、炭素税、排出権取り引き等の措置を適宜活用しなければならない。これらの措置の有効性と経済影響を吟味し、今後の温暖化対策の方向を提示するとともに、二十一世紀型文明の輪郭を描く。



●目 次

第1章 地球温暖化問題とは何か(地球温暖化のメカニズム、なぜいま地球温暖化問題なのか、環境と文化、問い直される二十世紀型鉱業文明)
第2章 エネルギー需給と地球温暖化(経済成長とエネルギー消費の増大、新エネルギーと原子力)
第3章 温暖化防止対策を考える(温暖化対策にまつわる利害、炭素税の有効性と経済影響、早期の対策か対策の先送りか、排出権取り引きと共同実施)


●読書のポイント

著者は経済学者の佐和隆光先生。経済学の観点から地球温暖化の問題をきちんととらえようとした正統的な新書です。環境問題や自然保護というテーマの議論では、とかく感情的、主観的な主張に陥ることが多く見受けられますが、この本はさにあらず。経済学という学問を通して冷静に現象と対応が考察されています。

本書の中で、「20世紀はどんな世紀だったのか」との問いに「イノベーション(技術革新)の世紀」だったということが記されています。20世紀に入り、数限りないイノベーションのおかげで地球的規模の経済成長がなしとげられました。一方で、20世紀の経済成長の原動力が石油製品と電力に基づいていたことから、20世紀は「石油・電力の世紀」であると同時に「CO2排出の世紀」であったとも。20世紀は、電力・石油の大量消費に始まり、電力・石油の大量消費の見直しに終わる世紀としてとらえることができるというわけです。

自動車等に代表されるイノベーションの数々を見てみても、佐和先生の指摘する「石油と電力」の大きな役割がよくわかります。そもそも、石油という安価な燃料があったからこそ自動車の普及が可能になったわけですし、道路やビルの建設に必要とする鉄鋼やセメントの生産にも、やはり化石燃料を燃焼させて炉を高い温度にすることが必要です。また、電力の供給にも、火力発電所において化石燃料が燃やされます。

その20世紀型システムを転換する、そのための施策として地球の温暖化を防ぐという問題に経済学的解決を試みます。著者は温暖化問題の対策として大量生産、大量消費、大量廃棄の20世紀型工業文明を見直し、炭素税、補助金、CO2排出権取り引きなどの経済的措置と緩やかな規制的措置により自主的取り組み、つまりライフスタイルや輸送モードの質的転換を図ることを提示します。そして、温暖化問題に楽観的な意見や温暖化対策に否定的意見に対して淡々かつていねいに反証していきます。

「もともと日本人は、質実剛健、質素倹約を旨とする生活様式を尊んできたはずである。金持ちが金持ちであるがゆえに尊敬されるということは、この国の長い歴史の中でついぞなかったし、ぜいたくは軽蔑の対象になりこそすれ、憧憬の対象になることはなかった」
これは私たち一人ひとりが肝に銘じたい言葉だと思いました。