宮田 秀明:ダイオキシン 岩波新書

ダイオキシン (岩波新書)

ダイオキシン (岩波新書)



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)

いま全国の土壌や大気、さらに母乳や血液から高濃度のダイオキシンがつぎつぎと検出されている。なぜ汚染が進むのか、環境や人体内でどう動くのか、毒性やホルモン攪乱作用はどうか。各地の汚染現場をよく知る著者が、発生のしくみから、最近とくに研究が進んでいる人体への影響と対策まで、ダイオキシンのすべてを解説する。


●目 次

1 日本のダイオキシン汚染 / 2 カネミ油症の原因物質 / 3 どこでつくられるか / 4 環境中の挙動 / 5 ヒトの摂取ルート / 6 人体におよぼす作用 / 7 対策を考える


●読書のポイント

最近では、アスベストにその座を明け渡し、ニュース報道にもあまり顔を出さなくなったダイオキシン汚染問題。埼玉県の産業廃棄物処理場の事例が大々的に報道されたのが、1999年の2月でした。

埼玉県西部に位置する「三富地区」産業廃棄物焼却施設が1980年代から90年代にかけて集中的に建設されました。かつては武蔵野の面影が残る自然美豊かな地域が、これによって一変したというのです。草木が黒く変色し、枯れ木も目立ち、周辺住民にも目やのどの痛みを訴える人が出ました。調査の結果、住民を驚愕させるほどのダイオキシン類が検出されました。投棄された焼却灰や周辺土壌に、ダイオキシン類が極めて高濃度で残留していることがわかったのです。 この後の住民運動の発端となったこの土壌に含まれるダイオキシンの調査を行ったのが著者の宮田先生でした。

この本は、話題が沸騰する最中に出版され、大きな話題を引き起こした本です。いま改めて読み返してみると、その後の環境行政に与えたインパクトの大きさに改めて驚かされます。

本書では、1968年のカネミ油症事件についても詳細に記されています。この原因究明の取り組みにも宮田先生はかかわってます。後に原因となった物質が、ダイオキシンに類似したポリ塩化ジベンゾフランと、コプラナPCBであったことを明らかにしたのです。

ダイオキシン類の人体影響評価は、まだまだ解明されていない点あるといわれています。しかし、現実に全国の焼却施設はことごとく解体され、大規模な溶融処理施設が次々と建設される昨今の状況を見るとき、この契機となった出来事を忘却のかなたへ追いやるわけにはいきません。

最近では、野焼きや焚き火もめっきり少なくなりました。実は、私は焚き火で焼き芋を作るのが大好きでした。もう10〜20年経過すると20世紀末に起きた日本のダイオキシン騒動の位置づけも明確になってくるのではないでしょうか。そういう意味でも時々こうした本を読み返してみるのも大切なことだと感じます。