松井 章:環境考古学への招待―発掘からわかる食・トイレ・戦争 岩波新書

環境考古学への招待―発掘からわかる食・トイレ・戦争 (岩波新書)

環境考古学への招待―発掘からわかる食・トイレ・戦争 (岩波新書)



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)

貝塚で発掘された骨のかけらから縄文人の食生活を推理し、遺跡の土の分析から古代のトイレをつきとめる―文献史学、動物学、植物学、生化学、寄生虫学などの研究成果を生かして、埋もれた過去の暮らしを明らかにする環境考古学の、豊富な成果を紹介しよう。日本各地と欧米のフィールドで知的なスリルに満ちた探索が繰り広げられていく。


●目 次

第1章 食卓の考古学 / 第2章 土と水から見える古代 / 第3章 人、豚と犬に出会う / 第4章 牛馬の考古学 / 第5章 人間の骨から何がわかるか / 第6章 遺跡保存と環境


●読書のポイント

浮世離れした考古学の世界にも「環境」がとりこまれているのか――本書は、そんな思いからふと駅中(エキナカ)の本屋で取り上げ、購読した一冊です。

環境考古学は、欧米ではすでに19世紀からある歴史のある分野だと本の中で紹介されています。自然科学の多分野の専門化が協力して、過去の物質や状況や関係などを推定するという考古学的なアプローチが著者の手記風のタッチでユーモラスに描かれています。

「学際」という言葉がまさにピッタリする分野で、こうした取り組みが考古学の世界でも広がっていることを感じさせます。これまでどちらかといえば閉鎖的だった日本の考古学の分野がこうした取り組みを通して開放されていくのではないでしょうか。

筆者は大学時代、文学部で伝統的な考古学を学んでいますが、そこで得た知識や経験を踏まえながらもさらに幅広い「環境考古学」へと研究の枠組みを広げようとしています。それは文系や理系という枠組みを越えた、古生物学や人類学・地質学なども包摂した総合的な知の体系ともいえる領域に及びます。

もともと大学で土木工学を学び、建設会社で構造物の設計や施工に携わったあと、その知識や経験をベースにより幅広い「リサイクル・環境浄化」の分野に足を広げようと試みる自分の歩みと重ね合わせながら、この本を読み進めました。

考古学という分野が一種推理の連続で成り立っていることも本書を通じて知ることができます。出土された骨などから、大昔の生活様式に思いをはせ、当時の暮らしぶりを推理する。ひとつの骨から、当時の生活様式だけでなく、交易ルートや食物の保存方法まで推理するのは、まさに「骨が折れるが味わいのある作業」のように思いました。しかも、その対象範囲が動物やトイレなど、これまであまり見向きもされなかったテーマに言及している点がユニークです。

そこには、現在の生活とは全く異なるエコロジー的な生活をかいま見ることができます。もし、何千年か後に今の私たちの生活様式をこのような考古学的手法で推理された場合、現代人の生活様式はずいぶんと無駄も多く、環境にやさしくない生活様式だったといった評価が下されるのではないでしょうか。

歴史的にみても現代はきわめて異常な時代だ!という歴史認識が定着するのかな、などとかんぐりながら本書を読了しました。