鳥越 皓之:花をたずねて吉野山―その歴史とエコロジー 集英社新書

花をたずねて吉野山―その歴史とエコロジー (集英社新書)

花をたずねて吉野山―その歴史とエコロジー (集英社新書)



●レビュー内容内容(「BOOK」データベースより)

今日、桜の名所として有名な吉野山だが、本来自然な山が、なぜ一面桜に覆われているのか? その理由を、吉野山が持つ意味から検証する。役小角が桜の木に刻んだと伝えられる蔵王権現。それを本尊とする金峯山寺蔵王堂は吉野山岳信仰の修験道の聖地である。他方、吉野山は、国政上の敗者が逃げ込んだ山でもあり、また天皇行幸の場、仏教修行の場としても重要な意味をもっていた。…いつ頃から、だれが、なんのために植えて、桜の山になったのか? お花見はいつ頃から始まったのか? 『日本書紀』以来、桜とともに歩んできた日本の歴史、日本の文化の深層を探る。それらの分析を通じて、あわせて、日本の自然環境保護運動・環境NPOの原点を求める。


●目 次

1 吉野山はどうして一面の桜の山になったのか―古代から中世へ(吉野山の象徴世界/花をささげる行為/吉野山を桜の山に)
2 吉野山の桜を保全する力―近世から現代へ(観光名所・吉野山の登場/桜保全NPO/終章 人が自然に介入しつづけた意味―自然環境保全とは)


●読書のポイント

まだまだ春は遠い酷寒の季節ですが、気分だけでも春を味わいたいと思い、本書を読んでみました。

関西で、いや我が国で歴史ある桜の名所と言えば吉野山ですよね。吉野山(よしのやま)は奈良県中央部にある標高455メートルの山です。古くから花の名所として有名で、大峰信仰登山の根拠地でもあり、日本史上の転回点にたびたび登場する場所です。2004年7月、吉野山を含む「紀伊山地の霊場と参詣道」が、世界遺産リストに登録されたことも記憶に新しいところです。西行が、太閤が、芭蕉が愛でた吉野の桜。この桜にまつわるエピソードを正月にゆったりした気分で読もうと思ったのですが・・・

読み始めてみるととても軽く読み流すことができるような本ではないことがわかりました。一言でいえば、日本文化史的研究論文のような内容です。非常に範囲が広く、内容も奥深い。私のような歴史オンチではちょっと歯が立たないようなところも多々あります。特に前半は歴史的素養がないとてこずることでしょう。ただ、きちんと読みこなせば労作であるがゆえにこの本の持つ意味や価値もわかるような気がしました。残念ながら、今回はさっと読み飛ばしてしまいました(スミマセン)。

著者が吉野山の桜に関心をもったのは、環境問題へのアプローチの仕方に対する疑問から生じていると冒頭のところで述べられています。人の手の加わっていない原生的自然をもっとも望ましいと考えるエコロジー的なイデオロギーへの疑問です。吉野山は、千年という長大な時間を使って桜を植えるというかたちで、人が手を加えつづけた自然であり、こうした自然へのアプローチの仕方も肯定されるべきではないかという考えです。この点については本の後半で考察が加えられています。日本文化形成論と環境問題の融合はとても面白い視点だなと思いました。


やはり百聞は一見に如かずということでしょうか。実際に吉野の桜を目の当たりにしてみないと本書の評価はできないなあというのが実感です。