山岸 俊男:安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 中公新書

安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書)

安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書)



●レビュー内容内容(「BOOK」データベースより)

リストラ、転職、キレる若者たち―日本はいま「安心社会」の解体に直面し、自分の将来に、また日本の社会と経済に大きな不安を感じている。集団主義的な「安心社会」の解体はわれわれにどのような社会をもたらそうとしているのか。本書は、社会心理学の実験手法と進化ゲーム理論を併用し、新しい環境への適応戦略としての社会性知性の展開と、開かれた信頼社会の構築をめざす、社会科学的文明論であり、斬新な「日本文化論」である。


●目 次

第1章 安心社会と信頼社会 / 第2章 安心の日本と信頼のアメリカ / 第3章 信頼の解き放ち理論 / 第4章 信じる者はだまされる? / 第5章 社会的知性と社会的適応 / 第6章 開かれた社会と社会的知性 / 後書き(研究の舞台裏)


●読書のポイント

耐震強度の偽装問題で、「信頼性」や「安全・安心」の問題に関する議論が高まっています。今回の事件が、私自身が長年携わってきた建設業界への不信感、ひいては規制強化の流れが加速するのではないかと懸念しています。そんなことがあって欲しくないとの思いを抱いてこの本を読みました。そしてこのことを確信するにいたったので、ここに紹介いたします。

本書では、現代の日本における「信頼崩壊」の問題から出発して、いまの日本が直面する問題が実は信頼崩壊の問題ではなく、安心崩壊の問題であることが示されています。そして安心崩壊の根底は、集団主義的組織原理の生み出す「機会費用」(いわゆるお役所的なチェックシステム)にあると指摘しています。これまでの日本社会はコミットメント関係を中心的な組織原理とする集団主義社会であり、この安心を生み出すコミットメント関係が、同時に機会費用を生み出していたというのです。ところが、この安心社会のバランスがここにきて大きく崩れてしまい、コミットメント関係からの離脱者が増えてしまいました。その結果、コミットメント関係に固着するための機会費用が急速に大きなものとなってしまい、そのための費用が「高くつきすぎる」ようになってしまったのです。

著者はこれからの社会は、こうした集団主義的安心社会から脱却し、信頼の解き放ちによる開かれた信頼社会への構築が望ましいとしています。こうした信頼社会への転換をはかることで、より効率的な社会や経済を展開していくことができるというのです。信頼をベースとした「取引費用」の方がこれまでの「機会費用」よりも安く、合理的であるということを示すために多くの実験結果が示されていることに興味を覚えます。

この本の特徴は、このような考えを社会観や道徳観として示すのではなく、社会科学的アプローチを通じて学問的に証明しようとしている点がとてもユニークです。きちんと読みこめばそれなりの学術書にも匹敵する成果を難しい数式もなしに知ることができると思います。また、さらっと読んでもそれなりに興味本位で読むこともできます。私自身は後者の読み方をしましたが・・・

面白いと思った点をいくつか列挙してみます。

 安心の日本と信頼のアメリ
 たいていの人は信頼できるか?
 日本人はアメリカ人よりも「個人主義」的!
 集団主義と安心の提供
 信じるものはだまされる?
 社会的びくびく人間
 大学の偏差値と「人を見たら泥棒と思え」
 針千本マシンと携帯型嘘発見機

上記の見出しではちょっとわかりにくいかもしれませんが、これらの答えは本書を読んでお確かめください。