森岡 正博:生命観を問いなおす―エコロジーから脳死まで ちくま新書


生命観を問いなおす―エコロジーから脳死まで (ちくま新書)

生命観を問いなおす―エコロジーから脳死まで (ちくま新書)



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)

環境破壊から脳死問題まで、現代社会はきわめて深刻な事態に直面している。このような現代の危機を生み出したのは、近代テクロジーと高度資本主義のシステムであり、我々の外部に敵があるのだという主張がある。生命と自然にかかわる諸問題に鋭いメスを入れ、あくなき欲望の充足を追求する現代システムに生きる私たち自身の内部の生命観を問いなおす。生命と現代文明を考える読者のためのやさしいガイドブック。


●目 次

はじめに/序章 環境倫理生命倫理/第1章 生命テクノロジーの甘い罠/第2章 エコ・ナショナリズムの誘惑/第3章 リサイクル文明の逆説/第4章 ディープエコロジーと生命主義/第5章 専門の囲いの中で―脳死身体の実験利用の現実/第6章 反脳死論を解読する/エピローグ――そして生命学へ


●読書のポイント

本書は、著者の提唱している「生命学」を平易に解説した入門書として位置づけられています。入門書といっても、レビューに示されたほどやさしい内容ではありません。取り扱われているテーマが環境破壊や脳死問題、環境倫理生命倫理、あるいは現代文明批判といった哲学的な内容が多く盛り込まれているため、かなり集中して読まないと途中で挫折してしまうかもしれません。

確かに平易な口語体の文章で書かれているので、一見簡単に読みすすめそうですが、その内容を深く理解しようとするそうはいきません。何度も立ち止まって考えないと頭にスッと入ってきませんでした。私自身、この分野の本をこれまで積極的に読んでいないことも影響しているようです。なんとか概念的には理解することはできたという感じでしょうか。新書としては骨太のしっかりした内容の本ということができると思います。

本書の趣旨を一言で言い切るのは難しいですが、あえてまとめれば「文明と欲望の共犯関係」ということになりそうです。現代社会の抱えている環境問題や脳死問題は、外部環境によって生じているように見えるが、つきつめて考えれば、私たち自身の内部にひそむ「生命の欲望」とその欲望が生み出した文明という「社会システム」が原因なのだという主張に尽きると思います。

壮大な哲学的アプローチのイントロダクションとして位置づけられたこの本。その先は「生命学に何ができるか 脳死フェミニズム・優生思想」という本で大きく展開されているようです。興味のある方はこちらも併読されてみてはいかがでしょうか。