四手井 綱英:日本の森林―国有林を荒廃させるもの 中公新書



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)

半世紀前、秋田営林局の山官として育林に携わって以来、森林生態学の研究に専念し、森林を守り育てることに心を砕いてきた著者にとって、林野庁が数十年にわたって進めてきた皆伐人工造林は見過ごすことのできないものであった。生態系としての森林の特色と役割を的確に捉えて現行の造林技術を批判し、北海道のエゾマツ林、秋田の天然スギ、木曽のヒノキ、九州の照葉樹林など、日本を代表する天然林の実相を伝える。


●目 次
本の森林と林業の現状/造林技術のあり方―生産力増強計画(拡大造林計画)を批判して/続・造林技術のあり方/いいたいことをいわしてもらおう/森林生態学の歩み/生産力増強と短期育成/亜寒帯の森林生産力/広葉樹林について/秋田の天然スギ/木曽谷のヒノキ/裏木曽・飛騨視察記/九州の照葉樹林/自然開発・自然保護・林業


●読書のポイント
本書は1974年に初版されたもので、戦後の日本の森林政策を痛烈に批判した本です。生態系としての森林の特色と役割を的確に捉え、戦後主流となった皆伐人工造林計画が非であることを骨太の論調で力強く訴えています。1974年に復刻版が発行されているので、現時点でもこの本を手にして読むことができます。

私は林業の世界についてその技術論や政策論をとやかく言える立場にはありません。ただ、林業という産業もまた、日本の自然を随分と痛めつけつける側の役割を担ってきてしまったのかという現実を本書を通じて知ることができました。戦後の中央集権かつ画一的な林業政策はこれから大きなツケ払うことになるでしょう。

著書の指摘するように本来、その土地の気候風土、あるいは生態系に合わせて森林を育むことが重要だと思います。森林は数十年から数百年という長い年月をかけて生態が形作られています。一度崩れた生態系はすぐには甦らないかもしれません。それでも、将来のため、そして将来を引き継いでくれる世代のために、本来あるべき自然の生態系を活かした森づくりを復活させるさせたいものです。