西口 親雄:ブナの森を楽しむ 岩波新書

ブナの森を楽しむ (岩波新書)

ブナの森を楽しむ (岩波新書)



●レビュー(出版社/著者からの内容紹介)

ブナの森に入ってみよう。ヤマハンノキの花穂の赤、ブナの芽吹きの淡緑、ウリハダカエデの紅葉の浅赤、またクロツグミやノジコのさえずり、キツツキのドラミングなど、四季を通じて色も音も豊かな世界だ。木・草・菌類・獣・昆虫と生命に満ちあふれる森の構造と生態系を知れば、森がいっそう身近で楽しいものになってくる。


●目 次

1 ブナ帯スケッチ / 2 ブナの森に入ってみよう / 3 ブナの一生 / 4 ガとチョウからみた日本のブナ / 5 森の安全保障システム / 6 伐採と開発を考える / 7 復活への模索


●読書のポイント

本書を読んでいると、作者は心底ブナの森を愛しんでいるんだなあ、ということがしみじみと伝わってきます。作者の経歴を読むと大阪府生まれで東京大学を経て東北大学の先生になっていることがわかります。その東北大学農学部附属演習林の先生となって宮城県の鳴子の山林管理をしていた頃の様子が書き綴られているのです。それが、実に楽しそうです。そして、本書に出てくる写真や図、あるいはスケッチが生き生きとしているのです。こういう本の書ける人生に憧れてしまいます。

ブナの豊作年が数年おきに訪れる話や、食物連鎖という森の安全保証システムの話など、とても興味深い内容のことが書き記されています。特に、森の安全保証システムの項で、

ヒトは、クルミを石で割る。トチノキの実はあくぬきするという方法で大量の食料を手に入れるようになる、これは、じつは生態系のルール違反のはじまりである。ヒトは生態系のルールを破ることによって、ヒトになった。「人も生態系の一員」というが、これはまちがっている。ヒトは生態系のシステムからはみ出してしまった動物である。生態系のルールを破った動物にたいしては、生態系はもうめんどうをみてくれない。勝手にしなさいと見離されている。人類はいま、自分の知恵で自分をコントロールしないと破滅してしまう段階にきている。

というくだりは達見だと思いました。