栗原 康:有限の生態学 ―安定と共存のシステム― 岩波新書

有限の生態学 (同時代ライブラリー)

有限の生態学 (同時代ライブラリー)



●レビュー(「BOOK」データベースより)

外界から遮断されたフラスコの中で複数の生物が自給自足する「共貧」のミクロコズム。牛と微生物の共生をささえる「共栄」の反芻胃の世界。極度に制御・管理された「緊張」の宇宙基地。三つの生態システムを特徴づける生命体の存在様式と再生循環の流れを考察し、限りある地球に生きる人類の存続の条件、安定と共存への道を探る。


●目 次

1 フラスコの中の自然―共貧のシステム / 2 ウシの胃の中の世界―共栄のシステム / 3 宇宙基地物語―緊張のシステム / 4 安定と共存のシステム / あとがき


●読書のポイント

閉鎖生態系についてやさしく解説したとても読みやすい本です。一時代前の古き良き岩波新書を彷彿させる名著です。現在は絶版になっているようで、岩波同時代ライブラリーとして出版されています(こちらもプレミアがついているようです)。

生態学者である著者が、フラスコの中、牛のルーメン(胃)、宇宙基地という3つの異なった生態系について観察し、その観察結果から得られた知見をもとに有限な地球という生態系のあり方について展望するというユニークな本です。

フラスコの生態系は、限られた資源を生態系の論理によって分け合う共貧のシステムとして特徴づけられます。一方、ルーメンの生態系は、豊富に流入する資源に依存する共栄のシステムとして特徴づけられます。さらに、宇宙基地の生態系は、限られた資源を人為的な規律によって維持する緊張のシステムと特徴づけています。

そして、地球が有限である以上、人口がこのまま増大すれば、共貧のシステムか緊張のシステムを選択せざるを得なくなるだろうと結論づけています。宇宙船地球号の考え方がここでも見事に展開されています。

著者がその後の研究成果も加味して書き上げた『共生の生態学』(岩波新書)という本は現時点でも書店で購入することができます(まだ、未読です)。ヒトと自然の共生の可能性を考えるには、こちらの本がオススメかも。購読したらまたここに掲載します。