稲本 正:森と生きる 共生進化で持続可能な木の文明

森と生きる 共生進化で持続可能な木の文明

森と生きる 共生進化で持続可能な木の文明




●レビュー

出版社 / 著者からの内容紹介
地球が悲鳴を上げている。温暖化防止は待ったなしの状況だが、解決のヒントは日本に古来からある「木と共にある暮らし」の中に隠されていた。縄文人の環境哲学から最先端の木の文明までを網羅した、人類を救う一冊。


●目次

はじめに/第1章 呼吸のたびに木の特殊能力に感謝 環境問題の本質を考える/第2章 地球の腸まで食い荒らす人間の業 人類の危機は方向感覚の喪失にある/第3章 新たな日本史観 争いのない縄文の繁栄と古墳狂想曲の違いを考える/第4章 木の力・人の技 その一 オークヴィレッジの共生進化/第5章 木の力・人の技 その二 「第三次木の文明」に向けたオークヴィレッジの挑戦/第6章 競争ではなく共生の結果としての進化 人類の祖先は負け犬だった/第7章 葉っぱが「緑色」でなければならない本当の理由 木の文明に向かうには、論理的根拠がある/第8章 漱石とソローの志を受けて 「則天去私」と「森の生活」が暗示する世界/第9章 循環型モデルとしての「自然学校」 「トヨタ白川郷自然学校」の試み/第10章 22世紀に向けたCO2の削減と吸収  環境指標の導入と国内外の育林/終章/おわりに



■読書のポイント

「本当に持続可能なシナリオ」を提示したいと思い立って書いた本だと、著者は冒頭部分で述べています。

私は人類が今一度、その故郷である森を見直し「森と生きる」という決意をし直し、「共生進化」という概念をしかと踏まえ「森の文明」を新たに創出し直せば「持続可能だ」と思っている。すなわち、「人類が新しい科学や技術を導入しつつ、過去の芸術文化を見直し、『森と生きる』方法を根本から見直すことで、持続可能となる」と思っている。逆にそうしないと人類は滅ぶとも思っている。・・・「木は大切である」ことは解るが、だからと言って『森と生きる』ことで人類は救われるなどと短絡して言われて、とても納得できないというのが一般的な見方だろう。・・・この本はその納得しづらいところを納得してもらうための本である。

出だしから、かなり興味をそそられました。

「木の文化」ならいざ知らず「木の文明」という言葉は耳慣れないし、そもそも「木の文明」なるものなぞあり得ないのではないだろうか?と思っておられる向きもおいでになるかもしれぬ。

全くそのとおりだと思いました。文化とは本来非合理なもの。そして文明とは徹底的に合理性を追求したもの。木の文化なら直感的にわかりますが、「木の文明」なんてと正直思ったものです。

しかし、この本を読むとその意図するところがよく見えてきます。

著者は、

植物は、太陽の光と水があれば、生きていける。しかし人間は、酸素を供給してもらい、食料を得なければ、生きていけない。人間は果たして、もっとも進化した生き物なのだろうか・・・

と著者は問いを投げかけています。

鉱物資源を掘り起こし、森林を焼き払い、大気を汚染している人間の行いは、“競争進化”の原理に基づいている。CO2の排出抑制をはじめとする環境問題の解決が急務の今、必要とされるのは、すべての「生命」を尊重する“共生進化”の思想だ。

そのキーワードは、「シゼン」ではなく「じねん」にあるのです。

葉っぱが「緑色」であることの理由を知ったとき、人間は「木の文明」に向かうことの意味を知るだろう。そこに、「森に生きる」ではなく、「森と生きる」ことの本当の意味が深く理解できるのだ。

この謎かけの種明かしは、是非本書を読んで解読していただきたいと思います。