早川 謙之輔 :木に学ぶ 新潮新書 (106)

木に学ぶ (新潮新書)

木に学ぶ (新潮新書)



●レビュー

 木曾檜はなぜ特別なのか。針葉樹と広葉樹はどこが違う。木目はいかにしてできるのか。縄文時代の技術レベルは。鋸の普及していない奈良時代に板はどうして作ったのか。「木挽き」や「剥ぎ師」のすごさとは。伊勢神宮の御木(ごき)とは。奈良の寺の古材から何がわかるか。音と木の関係とは。・・・・木工一筋に四十余年、現役の名匠が人と木の長い歴史を考える。


●目 次

 はじめに / Ⅰ 姿を仰ぐ / Ⅱ 歴史に触れながら / Ⅲ 「割る」と「挽く」 / Ⅳ 根も葉もある話 / Ⅴ 木の時代は過去のものか / あとがき


●読後感層

 著者の早川謙之輔さんは1938(昭和13)年の岐阜県生まれの木工職人さんです。木工一筋に40余年、現代の名匠が人と木の長い歴史を語っています。

 私もかつて岐阜県の山間の街、郡上八幡に暮らしていました。この街でも多くの人が木を生業として生活しています。岐阜県で7年間暮らしたときに、木が身近な生活の中にとけ込み、そして木のぬくもりにつつまれる豊かさを知りました。本書の中では、白鳥町や石徹白(イトシロと読みます)といった懐かしい地名が出てきます。こうした町や山に出かけ、谷に入り、渓流釣りをしたことの記憶が、私の環境に対する思いや自然観を醸し出したといっても過言ではないでしょう。また、飛騨高山にある「飛騨の里」の話もでてきますが、ここもとても懐かしい場所です。ここでは一位の木による一刀彫りを購入したことを思い出します。

 なんか、書評というよりは、過去を懐かしむコーナーになってしまいました。でも、木や木工に興味のある方には是非オススメしたい一冊です。読みやすく、それでいて木の文化が今も生きていることを実感させてくれる本です。本文から、早川さんのほのぼのとした人柄がにじみ出てきます。木工職人として真正面から木とつきあってきた人ならではの味わい深いエッセイです。早川さんとお話したことはありませんが、ボクトツとした職人気質が文章を通じて伝わってきます。その深い智恵、恐るべき技術をしっかり味わうことができるでしょう。