椎野 潤 :ビジネスモデル「建築市場」研究――連携が活性を生む

ビジネスモデル「建築市場」研究―連携が活性を生む

ビジネスモデル「建築市場」研究―連携が活性を生む



●レビュー(「MARC」データベースより)

「材工分離」の考えを持つ著者が、ITを使ったCADによる情報公開や、建設サプライチェーンの新しいビジネスモデルが建設業の再生をもたらすと云うことを唱える。


●目 次

第1章 落日の建設産業/第2章 建築市場のビジネスモデル/第3章 「品質・コスト情報」の透明化/第4章 建築産業の流通構造改革/第5章 IT高度利用現場管理/第6章 情報透明新産業の金融/第7章 建築市場集団の形成/第8章 建設産業活性化の糸口/第9章 建築産業の再生


●著者からのコメント

 2004年の秋、うれしいニュースが入ってきた。それは鹿児島建築市場が、日本ロジスティクスシステム協会(JILS)のロジスティクス大賞と日本経済新聞社の地域情報化大賞の二つの栄えある大賞を受賞したと言うニュースである。ロジスティクス大賞は、わが国のロジスティクスの先進的な活動を顕彰するものであり、これまで、わが国を代表する企業や団体が受賞してきた権威ある大賞であり、また、日経地域情報化大賞は、全国各地の先進的な情報化活動を顕彰する権威ある大賞であり、今回も、多くの候補の中から鹿児島建築市場が、グランプリに選出された。鹿児島建築市場の地道な活動が発掘され、顕彰されて大変に喜こばしい。
 本書では、この鹿児島建築市場を中心として、これに学んで建築市場を形成しようとしている人間集団について、多方面から観察して述べている。まず、この集団では、設計から見積、調達、資材配送、工事管理に至るまで、業務の多くが効率良くコンピュータ自動処理され、透明な情報が連携して流れている。すなわち、この集団は、高度にIT武装し合理的な生産を実践している。
 また、この集団は、徹底的な材工分離発注をおこない、品質とコストの情報を透明にし、高度の品質管理を行うとともに、サプライのチェンの中の無駄を徹底的に排除して、コストの大幅な低減に成功している。すなわち、それまで45万円/坪かかっていた建物を31万円/坪で建設するのに成功している。さらに、この集団は、透明な情報の早期の開示と確定により、流通構造を単純にし、資材の購入費を大幅に低減させている。また、この集団は、現場の職人を含めた全員がコンピュータを使い、情報を頻繁に交換して、見事な秩序を形成している。すなわち、この集団には、相互作用の多い複雑系の集団に生成する自己組織化現象が、すでに現れている。さらに、本書では、このうような素晴らしい活動をする建築市場集団を、どのように形成したら良いか、そのそのノウハウを掘り下げて検討している。そして、この建築市場集団が、低迷している、わが国の建設業を活性化させる糸口になることを指摘し、この動きが木造戸建て住宅の世界に止まらず、ゼネコンの世界にまで広がりはじめている現状を報告している。
 筆者が所属する早稲田大学アジア太平洋研究センターの建築市場研究会では、民間企業と産学共同で研究をおこなって、毎月、月例研究会を開催し、さらに毎年夏には、九州で研究大会、秋には合宿を行って密度の濃い討議を進めている。2003年も、7月に熊本で研究大会、11月に愛知で合宿を開催し、多数の人達に全国から集ってもらった。鹿児島で発生したこの新しいビジネスモデルを、この研究会では、解析し、体系化し、システム化しており、全国、各地で、同様の集団を形成したいと考える人達が、毎月、早稲田に集って研究している。現在、全国の36都府県で、その結成に関する動きがあり、22の都府県では具体化している。
 この活動は、各方面から注目され、都市再生本部、国土交通省をはじめ、鹿児島、熊本、高知、兵庫、愛知、東京、栃木等の自治体からも支援を受けている。この集団では情報が公開され、行動も透明であり、信頼関係の強い絆で結ばれている。これは、わが国の社会において解決しなければならない最大の課題である『情報の不透明、隠蔽の解消』と、これにより社会の体質が『時代の変化に対応していけなくなってい点』を解決に導く糸口であると思われる。この活動が、住宅建設だけでなく、広く、わが国の建設産業、企の混迷からの脱出のトリガーになればと期待している。


●読後感想

本書では「建築市場」でのサプライチェーンマネジメント(SCM)が実践が示されています。私のとって、CtoBマーケティングというアプローチは新鮮でした。これは顧客から選ばれるという「顧客起点」の視点が斬新だったからでしょう。さまざま家作りのしくみ(ビジネスモデル)を紹介するなかで、不況と言われて久しいこの業界の新たな再生への道筋を示しているものとして注目に値します。ここに示されたビジネスモデルの核心部は、透明な品質とコスト、きちんとした生産技術による正確な見積、e-マーケットプレイス、ITの高度利用の工事管理、新金融システムなどですが、これは他の事業分野でも応用できそうな予感がします。新しい建設業のあり方が感じられる一冊です。


http://www.domi-es.jp/