武田 邦彦:リサイクル幻想 文春新書

リサイクル幻想 (文春新書)

リサイクル幻想 (文春新書)



●レビュー(「BOOK」データベースより)

リサイクルをはじめ「循環型社会」「持続性のある文明」などの新しいパラダイムは、全体を俯瞰し、統合する理論と思想を伴わなければなりません。もし、それらなしに目の前の波だけを見て舵をきれば、航海士と船長を失った船のように大洋をさまようことになるでしょう。本著では「来るべき循環型社会とは何なのか」を明らかにし、21世紀の日本には「環境問題は大切だが、不景気もイヤだ」というジレンマが存在しないことを示します。(まえがきより)


●目 次

1 なぜリサイクルが叫ばれるのか/2 今のリサイクルは矛盾している/3 リサイクルから循環型社会へ/4 「分離の科学」から労力を知る/5 「材料」と「焼却」の意味を知る/6 来るべき循環型社会を考える


●読後感想

著者は材料工学・分離工学の専門家です。その専門的立場から今のリサイクルシステムが内包する矛盾点を明快に指摘しています。例えば、今のリサイクルでは「資源を浪費する」、「毒物が混入する」、「材料劣化を考慮していない」などという指摘です。

後半部分で著者は、循環型社会がどうあるべきであるかを提案しています。具体的には、人工鉱山の建設、長寿命設計、日本の風土と気候の利用、情報の物質削減効果の利用などです。この部分は圧巻です。思わず「そうだ!、そうだ!」と拍手喝さいを送りたいという衝動に駆られました。

自然科学的なモノの見方がベースにあり、主張に一貫性もあるので、一般読者でも問題意識がありさえすれば十分に内容が掴める本だと思います。

著者の主張はこれまでの「常識」からすればいささかかけ離れたものかもしれません。しかし、冷静に訴える主張には強い説得力を感じます。先入観を排して環境問題や資源の枯渇問題を真剣に考える上で新たな視点を与えてくれるくれるお勧めの一冊です。

以下に、「おわりに」の一節を引用します。この部分だけでも、大変印象深い本だと思います。

人間は理屈に合わないことをしない、西洋はそう考えます。不幸と幸福では幸福が良い、貧困と富貴では富貴が良い、没落と繁栄では繁栄が良い、短命と長寿では長寿が良い、それは当たり前だと主張します。しかし、貧困と富貴で富貴が良いなら物質は無限に使われますし、短命と長寿で長寿が良いなら臓器移植に歯止めがなくなり、人口は無限に増加します。今や西洋文明は破局を感じ、西洋合理主義は次のような結論を下しています。

豊かになれば破滅するという矛盾を解決するには、西洋人だけが富を独占することだ。それによって合理性を保つことができる。

一方、東洋はこう考えます。

この世は矛盾に満ちている。不幸と幸福では幸福が良いが幸福は不幸である、貧困と富貴では富貴が良いが富貴は貧困である、没落と繁栄では繁栄が良いが繁栄は没落である、短命と長寿では長寿が良いが長寿は短命である、これが当たり前だと教えます。

私はこの著を記すに当たって、私自身が日本人であり、東洋思想をうちに抱くがゆえに、もしかしたら正しい結論に至ることができるかもしれないと感じました。それは騎りかもしれませんし、あるいは東洋が日本人にくれた贈り物なのかもしれません。

http://www.domi-es.jp/