小田 亮:ヒトは環境を壊す動物である ちくま新書 452

ヒトは環境を壊す動物である (ちくま新書)

ヒトは環境を壊す動物である (ちくま新書)



●レビュー(「BOOK」データベースより)

エアコンを使えば温暖化を招く。洗剤を使えば河川の富栄養化が起こる。肉食はエネルギー的にムダの多い贅沢だ。わかっちゃいるけど、やめられない。かくして環境破壊は、今世紀最大の問題のひとつになった。なぜ私たちは「わかっちゃいるけどやめられない」のだろうか。本書では、進化心理学の立場から、ヒトの認知能力と環境との関わりを検証し、環境破壊は人間の「心の限界」がもたらしたものという視点を提示する。生物学からみた、まったく新しい環境問題の書。


●目 次

はじめに/「環境」とは何か/人間はどのような動物か/心の進化/環境の認知/公共財を巡って/進化と環境倫理/あとがき/引用・参考文献 


●読書のポイント

人間への直接的・間接的な利益をもちだして保護の正当性とすることを、環境倫理学では「人間中心主義」と呼んでいます。環境倫理学はこのような人間中心主義が現在の環境破壊の根底にあるという立場をとっていて、これに対抗する概念として、非人間中心主義、あるいは自然中心主義が唱えられているのです。

地球上に人類がいなくなってしまえば、環境問題を問題視するヒトがいなくなってしまうわけですから、環境問題は一気に解決してしまいます。しかし、そんな解決が解決といえるだろうか、と著者は読者に問いかけています。極端なかたちの自然中心主義は少なくとも誤りであると言うわけです。

生態系といった大きなスケールのなかで自らの存在を考えるなどといったことよりも、今日の飯を見つけいかにして生き延びるか、ということの方が、わたしたち祖先には大事なことだったという主張は妙に説得力があります。

人間の環境破壊という行動は、「わかっちゃいるけど、やめられない」のです。それは、ホモ・サピエンスの認知能力に限界があるから。だからこそ、その認知能力の範囲内に環境問題を落とし込んで行動を起こそうというのが本書の趣旨です。なるほど、と合点がいく内容です。