鷲谷 いづみ:自然再生―持続可能な生態系のために 中公新書

自然再生―持続可能な生態系のために (中公新書)

自然再生―持続可能な生態系のために (中公新書)



●レビュー

二十世紀後半、人類は多量の資源を消費し、廃棄物を自然界にまき散らすライフスタイルをエスカレートさせた。そのため自然の多様性は失われ、固有種の絶滅、異常気象の発生など、多大な影響が地球規模で発生している。環境を改変する力を持つ唯一の生物であるヒトは、今こそ、持続可能な生態系を再生させるために叡智を結集しなければならない。里山再生や淡水生態系の復活など、自然再生の思想と方法をやさしく解説する。


●目 次

序章 熱波に襲われたロンドンで/第1章 生物多様性の危機/第2章 生物多様性を育んだ共生と人類/第3章 征服型戦略の末路と積極的共生型戦略/第4章 健全な農業、健全な食卓をめざして/第5章 豊葦原の瑞穂の国の昔と今/第6章 英国の田園の自然再生/第7章 積極的共生型戦略の時代へ/終章 求められる悟りの


●読後感想

多くの生物が絶滅の危機に瀕しています。その速度はますます加速しています。20世紀後半のすさまじい開発行為の結果、すこし前まで身近にいたはずの種がいつのまにか絶滅しかかっています。

本書では、この絶滅への道の歯止めをかける手法として、「積極的共生型戦略」が示されています。「積極的共生型戦略」が今後の自然再生のカギとなるという提案です。

積極的共生型戦略は、これまで述べてきた共生型戦略(消極的共生戦略)を、人や生物に対する穏やかなまなざしを大切にしながら、科学的な裏づけをもって積極的に発展させたものとしています。

生物多様性というキーワードのもとに、環境との調和を探ろうとする対環境戦略は21世紀にはいり、はっきりした形を取りはじめました。

この戦略は、共生型戦略から受け継ぐ、人や生物に対する優しさと穏やかさと、征服型戦略の特徴ともいえる問題解決のための強い意志や積極性を合わせたところに成り立つものだと著者は訴えます。

世界中で始まっている環境再生の取り組みの多くは、この第三の対環境戦略の潮流として位置づけられそうです。絶滅に瀕した種の回復の試みを住民の理解と協力を得ながら科学的に進めるというアプローチに共感します。

ただ、ちょっと残念だったのは、この本論の「積極的共生型戦略」の中身が具体的にイメージできなかったことです。特に自然再生に対してどのように社会経済的合理性を与えていくのか、その道筋を明示していただきたかったと思います。

http://www.domi-es.jp/