柳田 邦男:阪神・淡路大震災10年―新しい市民社会のために 岩波新書 新赤版 (923)

阪神・淡路大震災10年―新しい市民社会のために (岩波新書)

阪神・淡路大震災10年―新しい市民社会のために (岩波新書)



●レビュー

教訓は生かされているか
多くの災害弱者を犠牲にした理由を新潟県中越地震等を含めて検証し、大震災の混乱の中から登場してきた「自律市民」の多様な活動を紹介する。



●目次

まえがき/第1章 災害弱者の視点から/第2章 検証・復興の19年/第3章 生きる場はよみがえったか/第4章 <内>に気づく、<外>とつながる/あとがき


●読後感想

本書の冒頭では、被災地とそれ以外の地域の「温度差」が、ずっと解消されずに続いてきたという指摘があります。それに加え、「体験の風化」が加わってきているとも。

最近の日本は、人々を震撼させる事件があまりにも次々と起こるため、一つ一つの事件に含まれる教訓を十分に読み取る余裕がないまま、「体験の風化」という現象がまるで順送りになって生じている。

だから今こそこの震災の風化を防ぎ、教訓を生かすために、総括的な検証作業が必要だとしています。


本書を読んで、一番強く印象に残ったこと――それは、災害弱者を支えたボランティアの果した役割がきわめて大きかったということです。

震災では、近隣連携の困難、自治体の問題意識と対応力の弱さ、災害弱者の情報力や行動力の弱さが表面化しました。こうした問題への対応が迫られる中で、ボランティア活動が活発化し、やがてNPOとして組織だった活動へと発展していったことが、詳細に記されています。

企業でもない、自治体でもないボランティア活動が、重要な役割を担う。これはこの10年間で起きた大きな変化です。そして、自治体や企業では果すことのできない役割をNPOがカバーすることで、地域のコミュニティーが円滑に形成される事例が確実に増えています。

自治体、企業、そしてNPOがそれぞれの得意分野で力を発揮しつつ、コラボレーション(協働)する。これからの日本社会のひとつの構図となりそうです。

この構図は、環境に対する取り組みでもそのまま当てはまります。この点については、新書で読む「環境側面」のコラムで再び考察します。

http://www.domi-es.jp/